戦国時代の越後の猛将、上杉謙信。
有名な、騎上に白頭巾にという、いでたち。毘沙門天の文字を旗印に颯爽とあらわれる、常勝将軍のイメージ。
つくづく、格好いいですよね!
ところが、この上杉謙信のイメージのほとんどが、実は江戸時代になってから作られたものだとしたら、いかがでしょうか?
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トレードマークの白頭巾すら、後世にできあがったイメージにすぎなかった?
そもそもあの白頭巾についても、問題があります。上杉謙信が剃髪したのは、ずいぶん後半生になってからのこと。
武田信玄と川中島の戦いをしていたころは、白頭巾の僧侶の恰好などはせず、普通の鎧武者の格好をしていたはずです。トレードマークともなっている戦場での僧形すら、後世のイメージにすぎない可能性が高いのです。
そもそも、騎馬隊の先陣に立って、みずから馬上で刀を抜いて突撃してくる猛将というイメージも、江戸時代に「上杉謙信と武田信玄の一騎討ちがあった」という伝説が生まれてから付与されたもの。実際には、謙信と信玄が実際に一騎打ちをしたという証拠も証言もありません。
「上杉謙信みずからも刀を抜いて戦った」という激戦の記録はあるのですが、これは乱戦の中でやむなく大将みずからも刀を抜いて奮戦するほどの激戦だった、くらいの意味ととらえたほうが自然です。
敵陣に自分が先頭に立って突撃した、という意味ではなさそうですし、まして信玄と一騎討ちしたなどというわけでもありません。これもまた、後世、特に江戸時代になってからの、イメージのひとり歩きによるものなのです!
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あらゆる面で江戸時代人にウケのよいポジションにいた上杉謙信!
そんな上杉謙信の、現代にまで伝わるイメージが、どうして江戸時代にここまで豊かに膨らんだのでしょうか?
おそらくは江戸の庶民文化の中で、歴史に題材をとった講談や浮世絵が、今でいうサブカルチャーのような勢いで人気商品になっていたことがあるでしょう。
そんな中で、そもそも江戸初期には、まず『甲陽軍鑑』という兵法書の影響で、武田信玄が「軍神」として人気者になっていたことが背景にあります。
ところが、これも世の「カルチャー」の常でしょうか。武田信玄を主人公格にして見たとき、どうしてもそれと互角、あるいは少し上くらいのライバルキャラクターが必要となってきたのです。
その時、上杉謙信は武田信玄とちょうどキャラクターも対照的なライバルとして、脚色がしやすいポジションにあったのでした。現代のサブカルチャーでも、主人公が強くなればなるほど、それを上回る難敵が出てこないと物語が盛り上がらなくなるもの。今も昔も、庶民の夢みる「ヒーロー物語」というのは、なんだか似た展開になるようで。
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江戸時代の支配層にも謙信のイメージは好都合だった!
江戸時代の庶民にとって、上杉謙信が人気キャラになったことには、もうひとつ、考えられる背景があります。正々堂々とした戦い方を好む上杉謙信。わざわざ敵に塩を送ってまで仁義を貫く上杉謙信。
こうした清廉なイメージは、江戸時代の支配思想である儒教や武士道の道徳に照らし合わせてみても、とても都合が良かった、という点です。この点では、父親を追放した武田信玄は、いかに強くても、やはり「武士の鑑」におくわけにはいかなかったようです。
人間くさい弱点を持ち、汚いところもある、武田信玄。それに対して、より江戸時代の道徳に適合するキャラクターである上杉謙信。そして後者が庶民の憧れの大将でいることは、徳川幕府体制の支配側にとっても、文句のないところ、むしろ称揚したいところだったのでしょう。
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まとめ:しかしなんといっても自分の出身地の大名が「最強」扱いというのは羨ましい!
ともあれ、現代における上杉謙信人気には、また違う側面も入ってきているようです。つまり、ご当地キャラ、自分の住んでいる土地の「自慢の戦国大名」としての上杉謙信です。
戦国時代ライターYASHIROの独り言
新潟県の人たちにとって、自分たちのご当地戦国大名が上杉謙信であるというのは、その「戦国最強」イメージも相まって、なんとも誇らしいことなのではないでしょうか。
この点、千葉県出身で、自分のご当地戦国大名といえば里見氏というビミョーな(!)存在になってしまう私なんぞは、いつも、なんとも羨ましいことだ、と思ってしまいます。
自分の出身地の戦国大名が「戦国最強」の異名を持つ猛将。うーん、やはり、それがいかに後世の脚色が多分に入っているものだとしても、とっても羨ましい!
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