「織田信長が天下を獲ったらどうなっていたか?」をあえて「おとなしい信長」シナリオで考えてみた


 

コメントできるようになりました 織田信長

 

敵将の頭蓋骨を盃がわりにして酒を飲む織田信長

 

誰もが知っている日本史の重要人物、織田信長。本能寺の変で明智光秀に討たれるようなことがなければ、そのまま天下を獲っていた筈の人物です。当然、歴史ファンの間では、「もしあのまま信長が天下を獲っていたら日本はどうなっていたか?」が、しばしば考察のネタになります。そして、この織田信長。

 

信長から直属の鉄砲隊を預けられ戦う佐々成政

 

「武田の騎馬隊を鉄砲を大胆に使った新戦術で倒した」とか、「宗教的権威を恐れることもなく、比叡山を容赦なく焼き討ちにした」などといった経歴から、中世日本の伝統を次々に破壊する革命児のイメージがついています。

 

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「そんなイメージの織田信長が天下を獲ったら、さぞかし日本史は大きく変わっていたことだろう」と思うのは、歴史ファンの気持ちとしては当然。「きっと豊臣秀吉や徳川家康よりも、遥かに斬新な政策をとっていた筈だ」という考察がしばしばなされます。

 

ですが!

 

ここでは、そうした「革命児」イメージとは違った方向から、信長が天下を獲った場合の日本の姿を考察してみたいと思います。

 

戦国史ライター YASHIRO-ver2

 

というのも、最近の研究では、「織田信長は従来言われていたほどの革命児ではなく、比較的、室町時代の体制の範囲内での統治を考えていたのではないか?」という説が出てきているからです。「革命児」というイメージとはずいぶん違う、「おとなしい信長」イメージとでもいいましょうか。

 

 

監修者

ishihara masamitsu(石原 昌光)kawauso編集長

kawauso 編集長(石原 昌光)

姉妹メディア「はじめての三国志」にライターとして参画後、歴史に関する深い知識を活かし活動する編集者・ライター。現在は、日本史から世界史まで幅広いジャンルの記事を1万本以上手がける編集長に。故郷沖縄の歴史に関する勉強会を開催するなどして地域を盛り上げる活動にも精力的に取り組んでいる。FM局FMコザやFMうるまにてラジオパーソナリティを務める他、紙媒体やwebメディアでの掲載多数。大手ゲーム事業の企画立案・監修やセミナーの講師を務めるなど活躍中。

コンテンツ制作責任者

yuki tabata(田畑 雄貴)おとぼけ

おとぼけ(田畑 雄貴)

PC関連プロダクトデザイン企業のEC運営を担当。並行してインテリア・雑貨のECを立ち上げ後、2014年2月「GMOインターネット株式会社」を通じて事業売却。その後、姉妹メディア「はじめての三国志」を創設。戦略設計から実行までの知見を得るためにBtoBプラットフォーム会社、SEOコンサルティング会社にてWEBディレクターとして従事。現在はコンテンツ制作責任者として「わかるたのしさ」を実感して頂けることを大切にコンテンツ制作を行っている。キーワード設計からコンテンツ編集までを取り仕切るディレクションを担当。


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室町時代の背景の中に冷静に置きなおされた「信長」像

 

 

 

たとえば柴裕之さんの『織田信長 戦国時代の正義を貫く』(平凡社)を読んでみましょう。革命児としての既存の信長像について、「こうしたイメージには、閉塞した時代からの解放を求める現代人の感覚による先入観が強く反映されている」としたうえで、「歴史学では近年、こうしたイメージに対して、現代人が彼に求める革新や保守の評価を先入観にはせず、時代に即した権力者=「同時代人」としての実像の追究が進んでいる」と述べられています。

 

 

水軍を作る織田信長

 

冷静な歴史学の検証が、俗説や伝説に覆われていた信長の「実像」を掘り出してみたところ、見えてきたのはそれほど型破りともいえない堅実な政治家としての実像だった、というわけです。

 

信長とマブタチな破天荒すぎる近衛前久

 

個人的には、歴史ファンとして少し寂しい「実像」な気がしますし、また研究が進むにつれて、「やはり革命児な面もあった」という、揺り戻しの証拠も出てくるのではないかと期待してしまいますが。

 

ともかく、最近の歴史学の研究がそうならば、ここではその「おとなしい信長」イメージに沿って考察をやってみましょう!

 

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狙いは天皇を立てた上での京都武家政権だった?

石山合戦 織田信長、本願寺顕如

 

そもそも、信長自身がどれだけ「天下」を欲していたかについて。織田信長といえば、最初から天下統一への野望をギラギラさせていた人物であるかのように思われてきましたが、最近の研究が明らかにしているのは、かなり意外な姿です。

 

前述の『織田信長 戦国時代の正義を貫く』(柴裕之/平凡社)に沿って確認してみましょう。

 

信長包囲網を築き織田信長の邪魔をする足利義昭

 

 

・足利義昭との関係だが、当初はどうやら偽りなく、本気で足利家による「室町幕府再興」を手伝う意図だった可能性である

・足利義昭が毛利に走った後も、信長は義昭に「頼むから京都に帰ってきてほしい。足利将軍がいない京都では天下に示しがつかない」と連絡を試みている

・挙兵した義昭の捕縛に成功したとき、「公方様を殺してしまっては天命がおそろしいから」と言って解放している

 

など、足利将軍家を滅ぼすような気配はなく、むしろ足利家がしっかりしてくれないと困る、とでも言わんばかりの言動が目立つのです。

 

oda-nobunaga-Tenkafubu(天下布武を唱える織田信長)

 

これが朝廷を相手にすると、なおさら信長の折り目正しい言動が明確になります。かつての俗説では「信長は最終的には天皇になり替わる意図すらあった」などされたくらいでしたが、どうやら織田信長の真の目的はもっと堅実なもので、「天皇を頂点に据え、足利家も再興させ、自身はその補佐につく」という公武合体の京都政権だった模様なのです。

 

このような「おとなしい信長」が天下を獲ったらどうなったでしょうか?

 

兄弟のように慕う織田信長と浅井長政

 

意外や意外、せいぜい織田家が足利家のポジションにまるまる収まるだけで、基本的な社会のシステムは室町時代のものをそのまま使ったのではないでしょうか?

 

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軍事改革だけはそうとう進んだ?

安土城 織田信長が作らせた城

これでは、ずいぶん既存のイメージとは違った織田政権が出来上がりそうですよね。

 

ただし!

 

そんなおとなしい信長政権が出来上がっていたとしても、ひとつ、信長のおかげで大改革が起こる分野があったと思っています。

 

それは、軍事面です!

 

部下を競争させる織田信長

 

織田信長の強さは、豊臣秀吉のような素性の怪しい者であっても、軍事の才能さえあればどんどん出世させるという、旧来の身分制度にとらわれない軍政組織にありました。

 

「おとなしい信長」像でも、この軍事の才能だけは評価されているわけですから。当然、天下を統一した場合も、軍事面だけは斬新な制度を導入したのではないでしょうか。政治体制は旧来のままであっても、軍事組織はきわめて先進的。そんな世界最先端の軍事優先国家になったかもしれません。

 

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まとめ:軍事だけ突出した国家の行方は?

信長包囲網を失敗する朝倉義景

 

ただしこの考察、怖いところがありますよね。というのも。

 

政治体制は室町時代のままで、軍事の才能が溢れた将軍たちが取り立てられ、進んだ軍事兵器と軍事思想を持っている国、そんなアンバランスさは、何か危険がしますよね。

 

nobunaga-oda-Honnoji(本能寺の変の織田信長)

 

たとえ本能寺の変がなく、信長が天下統一を成功させたとしても、このようなアンバランスな体制では、けっきょくいつかは謀反やクーデターが起きてしまう気がします。

 

battle-Soldier(合戦に参戦する兵士)

 

あるいは、それを回避するためには、信長としては強力な軍隊をなんとかして「発散」させてやらなければならない為、意外や意外、「信長版の朝鮮出兵」などという事態もあったかもしれません。

 

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戦国史ライターYASHIROの独り言

戦国史ライター YASHIRO-ver3

 

いずれにせよ、この「おとなしい信長」の天下はあまり長続きしそうにありません。

 

従来の革命児信長像が日本を統一しても怖いことがありそうですが、この「おとなしい」信長像の日本統一も、行く末はハッピーエンドではないような気がしますが、いかがでしょうか?

 

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YASHIRO

通説では「ダメ人物」とされている人について、史料に則しつつも「こういう事情があったのではないか?」と「弁護」するテーマが、特に好きです。愚将や悪人とされている人物の評価を少しでも覆してみたい!がモチベーションです。日本人の「負けた者に同情しがちな心理」大切にしたいと思っています
【好きな歴史人物】
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